赤外線高分散ラボ:Laboratory of Infrared High-resolution spectroscopy

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次世代赤外線天文学のための超高感度イマージョン回折格子の開発に成功
(2015.07.09 掲載)

次世代の30mクラスの地上巨大望遠鏡や赤外線宇宙望遠鏡においては、赤外線の波長での 「高分散分光観測
(R=λ/Δλ>50,000)」が、天文学のあらゆる分野において必須であると考えられています。 例えば、高分散分光観測によって得られたスペクトルによって、宇宙において物質(生命体の元となる有機物質も含む)が どのように形成されてきたかを明らかにすることができるからです。 一般に、望遠鏡に搭載される赤外線高分散分光装置は非常に大型であり、 次世代の30m望遠鏡(TMT)や宇宙望遠鏡への搭載実現するためには、分光器そのものの縮小化が必須であることが言われていました。
「イマージョン回折格子」は、この困難を解決する新しい光学素子です。イマージョン回折格子とは、 屈折率の高い赤外線光学材料(n>2)に回折格子を形成し、その物質の内部形状を回折格子として利用したものです。 光の波長は物質の内部においては屈折率分(典型的には2~4倍)だけ波長が短くなるため、 小型であっても大きな光路差を得ることが可能になり、古典的な回折格子と同じ波長分解能を得ることができるというのがその原理です。 イマージョン回折格子を用いることで、赤外線高分散分光器の飛躍的な縮小化が可能になります。
今回、LiHの池田優二研究員を中心としたユニットは、キヤノン株式会社と共同でCdZnTe(テルル化カドミウム亜鉛)という 半導体材料を用いて、世界に先駆けて超精密切削加工による赤外線用のイマージョン回折格子を実現しました(下図)。 製作したCdZnTeイマージョン回折格子をさらに、独自開発した精密測定ユニットを用いて評価したところ、赤外線波長において、 回折効率が81%以上、波長分解能が250,000以上という理論的に予想される限界性能が達成されていることを確認できました(下図)。 これは、次世代の赤外線高分散分光の実現に道をつけたという意味で、非常に意義のある結果です。 この成果は、Applied Optics(2015年6月1日号)に掲載されました。


  
製作したイマージョン回折格子(左図)と回折効率の測定結果のシミュレーション(実線)との比較(右図)

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