赤外線高分散ラボ:Laboratory of Infrared High-resolution spectroscopy

プロジェクト

近赤外高分散分光器 WINERED

近赤外線波長域の高分散分光器は、天文・天体物理においての科学的重要性が広く認識されていたにも関わらず、長年の間それに適合した観測装置が実現しませんでした。これは波長域特有の技術的ならびに観測的な困難によるものですが、わたしたちは現在得られる最高の技術を集結し、ついに可視光と同レベルの(赤外線においては世界最高レベルの)高感度、高精度の分光観測が可能な近赤外高分散分光器(WINERED:Warm INfrared Echelle Spectrograph to REalize Decent precision)を開発することに成功しました。波長域0.9-1.35ミクロンを同時にカバーすることができる広帯域モードを備え、多種多様な天体の観測に活躍しています。また、近い将来に波長分解能10万の「超高分散モード」の搭載によって、さらに高精度な恒星の観測が可能になることが期待されています。
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Lバンドイマージョン分光器 VINROUGE

近赤外波長域でも長波長に位置する「Lバンド(波長2.9-4.2ミクロン)は、有機分子の振動回転遷移によるラインが豊富に存在することで知られています。したがって、この波長域での赤外高分散分光は、星間有機分子の観測に最も適している波長帯の1つであり、次世代の高感度な分光器の実現により、アストロ・ケミストリーおよびアストロ・バイオロジーを大きく進展させることができると考えられています。わたしたちは、WINERED同様に広帯域かつ波長分解能10万をもつLバンド専用の高分散分光器(VINROUGE:Very-compact INfrared high-ResOlUtion Ge-immersion Echelle spectrograph)を、”イマージョングレーティング”と呼ばれる新しい光学素子を用いて完成させるべく開発をスタートさせました。VINROUGEは、海外の観測適地の大望遠鏡に取り付けて大規模な観測をすすめることで、次世代の天文学をリードすることができると考えています。

赤外線用イマージョングレーティングの開発

中間赤外線波長域(波長5-20ミクロン)は、大気からの強い赤外線放射に邪魔をされ天体の観測が最も難しい波長域の1つです。高分散分光は一部の明るい天体については行われていますが、本格的な観測のためには大気のない宇宙空間に出て、衛星を用いた観測が必須となります。しかし高分散分光は一般に大きな装置となるため、衛星での実現は不可能と考えられてきました。そこでわれわれは、小型の赤外線高分散分光を実現する”イマージョングレーティング”と呼ばれる透過型の光学素子の開発を行っています。中間赤外線波長域には、バイオ・マーカー(bio-marker)と呼ばれる生命存在の兆候を示す分子ラインが多数存在すると考えられており、スペースからの高分散分光の初実現により、アストロバイオロジーの分野において、大きな進展が期待されます。